投稿日 2022年2月8日 | 最終更新 2023年4月11日
「やっぱり実績から考えると鉄緑会かな、でも最近の思考力を問う問題だとSEGも捨て難いわね。英語は平岡塾が良いらしいわよ」中華料理屋の回転テーブルは料理を置く余地もなく、塾のパンフレットで埋め尽くされていた。息子の中学受験合格の余韻にひたる間もなく、妻の視線は既に6年後を見据えていた。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
「小学校受験で全滅した時は驚いたけど、たかし君はやればできるってお婆ちゃんは信じてたから。筑駒も開成も偏差値78よ。暁星より10以上も上だし、東大理Ⅲも目指せるんじゃない」母も顔を紅潮させる。相手の気持ちを考えることなく、数字や世間体だけで子供や孫を評価する。昔からそんな人だった。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
たかしの顔が曇るのを察し、場の雰囲気を変えようと試みる。「ほら、合格祝いだしパーっといこう。北京ダック食べるか?」我ながら空疎な言葉だ。6年後の大学受験、医学部に入ってからの試験の日々、待ち構える国試。タワマンのエレベーターのように、決められたコース。本当にめでたいんだろうか。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
「跡取りが優秀で天国のお爺ちゃんも安心ね。たかし君も医者になれば安泰だからね」母がこう言えば、妻も「医学部といってもピンキリだし、6年間頑張らないと」と被せてくる。祖父母や親が決めた、幸せな人生。自由に飛び回れる大空を知らぬまま、籠の中で暮らす鳥と自分や息子を重ね合わせてしまう。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
突如、思い詰めた表情でたかしが口を開く。「僕は医学部は目指さない!鉄緑会よりルートHに通いたい。スタンフォードかMITに入ってシンカリオ… 次世代高速輸送システムを開発するんだ!パパみたく、肛門科の先生として中年男性のアナルを診察する人生は嫌だ!」個室にアナルという単語が響き渡る。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
優等生だった子供の反抗で場の空気が凍る。モンクレールのダウンジャケットが必須な、冬のタワマン高層階の外気温のようだ。しかし、こうなる前から薄々気付いていた。勉強の合間、SAPIXが配る受験情報誌スクエアの、開成や渋幕の校長が海外大を語る記事を食い入るように読むたかしの姿を思い出す。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
「なんてことを…母親の育て方が悪かったのかしら。だから短大卒は!」「お義母さんだって看護専門学校でしょ、大して変わらないじゃない!」母と妻の醜い言い争いを無視して、覚悟を決めた視線を向けるたかしと向き合う。肛門科専門医としてのキャリアを否定された憤りより、息子の成長が嬉しかった。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
「パパな、本当は宇宙飛行士になりたかったんだ。でも、お爺ちゃんやお婆ちゃんに逆らう勇気がなくて、医学部に行ったんだ。大人になってタワマン高層階に住んだのも、少しでも宇宙に近づきたくてさ」誰にも話したことのない秘密を打ち明ける。ZOZOを創業した方が近道だったとは当時は知らなかったが。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
「あなたまで何を言ってるの、アメリカの大学なんて川崎医大並に学費がかかるのよ!」妻の悲鳴をよそに、やけにスッキリした気分だ。学費がなんだ、金が足りなければ脱毛クリニックに名義貸しでもすれば良いだろう。何のための医師免許だと思ってる。スルガに嵌められてもなんとかなる属性を舐めるな。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
沈みゆく国で数が限られた椅子に座るため、幼い頃から競争に放り込まれ値踏みされる子供たち。2月の勝者になっても、そこはゴールではなく次の競争のスタートラインでしかない。この螺旋階段を登った先にあるタワマン高層階から見える景色も、そこで生まれ育った子供にとっては退屈な日常でしかない。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
息子の決断に文句を言っていた妻も、翌朝には「スタンフ母に、私はなる!」と張り切ってTOEFLの参考書をポチっていた。結局、かつて頂点だった東大や医学部がインフレして海外大になり、無責任な大人たちが囃し立てるだけだ。結局、タワマン低層階と高層階のエレベーターの違いで争う人々を笑えない。
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
しかし、子供の夢を応援するのも親の役目。自分が届かなかった世界を見てほしいという純粋な想いが、SAPIXの過当競争を生み出しているのもまた事実だ。新たな課金競争が幕を開けた。海外大の学費と寮費、数千万円で足りるだろうか。やれやれ、タワマンのローン完済はまだまだ先になりそうだ(完
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
Twitterに下世話な小説を書いて耳目を集め、noteの書評に誘導するビジネスモデルで月を目指してます。稀にトチ狂って真面目な文章も書いてるから読んで!みんなでプロフェッショナリズムについて語り合お…?https://t.co/wKeWChrLpA
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
あとライフワークとして、遺児支援のあしなが育英会を応援してます。課金力で教育の質も進路も決まりがちな昨今、親がいないハンデを乗り越えようと努力する子供たちを社会として応援できないかなと。コロナ禍で財政危機に陥ってるらしいので、少額でも良いので是非!!https://t.co/AVNZ5PWHHv
— 窓際三等兵 (@nekogal21) February 5, 2022
毎回楽しみにしております。
— 漂馬 (@n1xybe1r2WWX8k7) February 5, 2022
あしながポチります。脚短いですけど…
たかしくん家続編うれしいです!どの登場人物も血が通ってて好きです。
— かおり (@kaoringo_ringo) February 5, 2022