投稿日 2022年6月7日 | 最終更新 2023年4月11日
麻布競馬場@63cities久しぶりです。恥ずかしいので留守電にします。謝りたいんです。君を、大阪という街を誤解して、勝手に嫌っていたこと。東京に戻って、東京で傷付いてから、やっと気付いたんです。君が、知らないおばちゃんが飴ちゃんをくれるように、僕に優しさを手渡して、握らせてくれたこと。
2022/04/17 09:07:46
東京で生まれて、両親の仕事の都合で中二から大阪に引っ越しました。転校の挨拶で標準語を話したら「芸能人みたいやな」と同級生たちに笑われました。クラスの人気者はいつでも「おもろい人」。頭は良くてもおもろいことなんて何ひとつ言えない僕は、いつもクラスで浮いていました。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 17, 2022
この街には川がたくさんありました。豊中のマンションから神崎川を渡って、淀川のほとりの十三の公立高校へ。みんな頭がいいのに、東京ではなく京都や大阪の大学を目指していました。みんな地元を愛していました。地元や地元の仲間を捨てて東京に出るなんて選択肢は、この街には存在しないようでした。
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この街には川がたくさんありました。いつも肌に張り付くような湿気。どことなくそれに似た押し付けがましい善意。濾過されることなく浴びせられる本音。配慮や距離感というものがこの街には存在しないようでした。東京とはまったく空気が異なるようでした。その空気に、僕はいつでも窒息しそうでした。
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高校にも馴染める様子はありませんでした。僕はたぶん、大阪を見下していました。心斎橋なんて、表通りこそ小さい頃両親と行った銀座や表参道のようで、しかし一本入ればもう地方の商店街のようで、この街は都会のふりをした壮大な田舎だと思っていました。貴種流離譚みたいなものだと思っていました。
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「一緒に漫才せぇへん?」図書館に行こうとする僕を捕まえて、君はそう言いました。五月の雨の日。大阪弁と標準語をぶつけ合う新感覚漫才を、文化祭で二人でやろうと言うのです。もちろん断りました。「台本だけでもええから!」一刻も早く逃げたい一心で、それだけなら、と、つい言ってしまいました。
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君のことが嫌いでした。入学してすぐの宿泊研修でも、その後のクラスの様々でも話しかけられた記憶があります。僕にとって君は大阪の悪しき象徴でした。病的な陽キャ。いつもクラスの中心にいて、さして面白くもないツッコミを大声で言うだけで、その勢いだけでみんなを笑わせているように見えました。
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いつも独りぼっちのかわいそうな同級生を助けてやろうとか、東京モンに大阪のおもろさ至上主義の洗礼を受けさせてやろうとか、そういう侮蔑交じりの頼んでもいない善意を押し付けようとしているんじゃないか。君も、僕を漫才に誘うという君のその行為も、悪しき大阪の悪しき象徴のように見えたのです。
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驚くべきことに、台本はスラスラと書けましたし、自分で言うのも何ですが、かなりいいものが書けました。君に勧められるがままに何組かの芸人の漫才を見て、分析して、サンプリングして融合させる。そういう作業の末に、「凶暴な高速ナマケモノが動物園から逃げ出した話」という怪作が完成しました。
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「…その鋭い鉤爪で、御堂筋の道路標識を片っ端から切り刻みながら、こっちに向かってるらしいんですよ」結局、丸め込まれてステージに立たされました。空き教室で、河川敷で、君は細く剃った眉の下の目をキラキラさせながら僕を鍛えた。大爆笑。僕はその日初めて、大阪に受け入れられた気がしました。
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それでも僕は標準語を話すのをやめなかったし、大阪は相変わらず息苦しい感じがしたし、自分の居場所は東京にあると信じていました。東京の大学ばかり受けて、第一志望の国立大学は落ちて、滑り止めの三田の私学に満足して進学。上京の日。車窓を流れる大阪の街。ほんの少し、郷愁みたいな感情。
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「関西から来たんでしょ」新歓で行ったお笑い研究会で、内部生らしい先輩が、あまりにうつくしい標準語でそう僕を笑いました。「イントネーションが、濁ってるから」田舎者なのに、頑張って標準語なんか話しちゃって。そう言わんばかりのその目。あれだけ憧れた東京に、拒まれたような気がしました。
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代わりに映画サークルに入りました。映画の脚本もそれなりにうまく書けたらしく、部内のコンペもよく通ったし、映像化された作品はいくつか賞も貰いました。広告代理店勤務のOBに目をかけられて、CMプランナーとしてインターンも始めて、そのままそこに就職して、僕は広告業界に入りました。
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「社内外とのコミュニケーションをもっと上手にやってもらわないと」コミュニケーションをデザインするはずのこの業界ではありえない指摘を、僕は毎回の評価面談で受けました。優秀な同僚たちより圧倒的にいいものが書けるわけでも、CDやECDに可愛がられるわけでもない僕は、完全に停滞していました。
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いま振り返ると、大阪に来る前、東京では友達らしい友達もいませんでした。学校では独りでいることが多かった気がします。両親が大阪に引っ越したのも、通信簿に書かれたそんな僕の交友関係を変えるいい機会だと思ったからかもしれません。事実、君のおかげで、高校では何人かの友達ができました。
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僕の、人を見下すその性格のために生じた東京での惨めな暮らしを、そのまま大阪に持ち込んで、それを大阪のせいにして、僕は救われたような気持ちで、いつも独りで図書館で本を読んでいたのかもしれません。その他責の底なし沼から僕を引き上げ、ステージに引っ張り上げてくれたのが、君だったのです。
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僕が担当したラジオCMが小さな賞を取って、表参道の小さなホールで授賞式がありました。では一言、と言われたときにステージの上から眺めた、僕のことなんて興味がなさそうにスマホをいじったり、ビールを啜ったりするその人々の冷やかな目を見て、急にふと、あの日のことを思い出したんです。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 17, 2022
大阪を見下し、君を見下し、東京に戻っても自分より書くのが下手な人を、それでいてコミュ力で仕事を取る人を見下し、僕より立派なものを書いて賞を取る人は見て見ぬふりをして、何か理由を付けて自分のかわいい自尊心に傷が付かないようにする。それを繰り返した末路が、僕のこの惨めな現状なのです。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 17, 2022
授賞式のステージに立ってやっと理解できました。君が、邪な気持ちなんかじゃなく、困窮の中にいた僕を救い出すために、純粋な優しさによって手を差し伸べてくれたこと。挑戦した僕を、高校のみんなが笑ったりせず、しかし大きな笑いをもって応援してくれたこと。大阪はそういう街だったのです。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 17, 2022
ここは東京で、君はこの街にいません。だから、僕は自分の力で変わらないといけない。最近、麻布十番に引っ越してきました。小さいけど川があるんです。川沿いの、深夜の誰もいない公園で、コンビニで買ったお酒を飲みながら、ふと君のことを思い出して、電話してみたんです。話し中だったけどね。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 17, 2022
どうしていいか分からないけど、もう少し、頑張ってみようと思うんです。恥ずかしいから折返しは不要です。今日、東京では桜が咲きました。君も、どうかお元気で。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 17, 2022
心に沁みながら少しギュッとなる大阪Twitter文学、永久保存したい、マジ大阪の人全員読んでほしい https://t.co/AVRyEEao4a
— 天茶 (@sakekureman) April 17, 2022
タワマン文学で泣いちゃったよ… https://t.co/TjHAL0wpTt
— まき まき (@makimaki_91) April 17, 2022
俺のことはどうでもいいので、なるべく多くの人がこの素晴らしい文学に触れられますように… https://t.co/lvS6o4YBa3
— れたすん (@latearth) May 19, 2022
大阪の文字に釣られて読み始めましたが、コミュ障の俺に刺さる一連のツイートでした https://t.co/WoM3YzlEQC
— スナックびすた (@nisuta_bisuta) April 18, 2022
やしきたかじんの『東京』を脳内再生しながら、読む。 https://t.co/bPDtbwxo4T
— mistral6996 (@mistral6996) April 17, 2022
今回のお話は主人公?が救済されてる読後感ありますね。タワマンは道を迷い続ける迷子の歪んだ主観が気の毒でこころが痛かったw https://t.co/JBpyJNd3rE
— noname2020 (@Mitsuki1116) April 17, 2022
大阪の人たちから絶大な称賛得そう。でも私もしんみりしてしまった。いつもうまいなぁと思ってるんだけど、今回は、それ以上に沁みた。 https://t.co/pjubeCb1qq
— kodinmari (@sora_no_mukou) April 17, 2022
なんと、衝撃のラストでした。笑
— suguni (akiyama natsumi) (@akinatsu_design) April 18, 2022
このツイートの主旨とはずれますが、大阪に行ったことがなかったからイメージできなかった部分もあるので、今度聖地巡礼しようと思います。 https://t.co/xXDvFxbEH9
このお話の友人からの視点でのストーリーはこちら↓
ツイッター文学「君はまだ、東京で元気にやっていますか。」麻布先生の東京物語https://t.co/hI9jw2mU3X
— 日刊経済ツイ信(経済ツイートまとめ) (@nittsui) June 6, 2022