投稿日 2022年11月6日 | 最終更新 2023年4月11日
窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で@nekogal21むかしむかし、あるところに情報商材売りの男性がいました。「副業で月収100万円を稼ぐ有料noteはいりませんか?あなたもFIREしたくないですか?」男性はTwitterで声を枯らし、インスタで拾ったホテルや高級腕時計の写真を貼り付… https://t.co/DFAuHZBPFo
2022/11/05 12:40:30
男性が悲しそうにスマホをポケットにしまった、その時です。ベントレーが突っ込んできました。「ああっ!」男性は転びました。「馬鹿野郎、ひかれたいのか!」運転席から黒光りした男が怒鳴ります。金銭的な成功こそが人の価値だと信じて疑わぬ人間だけが出せる、己の非を認めぬ傲慢な声。資本の暴力。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
資本主義の極北、東京砂漠。定職もなくアフィリエイトで日銭を稼ぎながら情報商材が売れることを夢見ている38才の男性を、道交法は守ってくれません。クラクションを鳴らし去っていくベントレーを、男性は冷たい道路に座って呆然と眺めていました。トボトボと町屋駅徒歩9分の築古アパートに帰ります。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
「ただいま」。家に着きましたが、そこに人の気配はありません。家族も、恋人も、家で男性の帰りを待ってくれる人間は誰もいません。虚しくなった男性は、スマホでYouTubeのヒカルの動画を観ながら、業務スーパーで買った298円のチキン南蛮弁当をモソモソと食べます。ご飯が少し固くなっていました。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
電気代も灯油も高いので、暖房器具は使えません。ストロングゼロを飲んで毛布に包まりますが、築古アパートのアルミサッシから冷たい風が入り込みます。あまりの寒さでこごえてしまった男性は、売り物の有料noteをそっと開きます。「シュッ」という音と共に、温もりに満ちた光景が目の前に広がります。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
そこは渋谷ストリームのオフィスでした。24階の社員食堂で、美味しい料理に舌鼓を打ちながら外国人の同僚と雑談する男。高校の同級生の鈴木君です。一浪して東京理科大に進学し、修士号取得後にNTTに就職した鈴木君。現役で早稲田の社学に進んだ男性は「コスパ悪すぎw」と鈴木君を見下していました。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
しかし鈴木君は頑張りました。NTTの研究所で働きながら、社会人大学院で博士号を取得。見事Googleへの転職を決めたのです。高2で数学を捨てて私立文系に逃げ、努力から逃げ、似顔絵アイコンで自称GAFA社員として中身のない情報商材を売る男性。一体、どこで二人の道は別れてしまったというのでしょう。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
気がつくと、また寒々しい部屋です。静寂の中、隣の部屋からは何かを叩く音と女の人の泣き声が聞こえます。男性は慌てて次の有料noteを開きました。目の前に現れたのはタイムズスクエア。雑踏の中、スタバのコーヒーカップを片手にスーツの男が颯爽と歩いています。みずほ銀行で同期だった田中君です。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
大学時代に遊び呆けていた男性でしたが、当時は運良く就活売り手市場。大量採用しているメガバンに潜り込めました。しかし、待っていたのはノルマとパワハラ、資格試験。FP2級に落ちて支店長に詰められた男性は「今どきJTCとかオワコンww」と言って、すぐにプルデンシャルに転職してしまいました。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
同期が次々と脱落していく中、田中君は逃げませんでした。リーマンショックで資金繰りに苦しむ融資先を回り支援計画を練り、震災でATMが止まれば店頭で罵声を浴びながら頭を下げました。カラオケでは率先してマラカスを振り、支店のゴルフコンペは皆勤賞。帰宅後のTOEICの勉強も欠かしませんでした。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
上司達は、そんな田中君を可愛がりました。地方支店から本社の法人営業、海外営業と順調にステップアップして、ついにNY駐在を勝ち取ったのです。プルに転職したものの鳴かず飛ばずで、強引な営業で友人からも避けらるようになり、逃げるように転職を繰り返し転落していく男性との差は広がるばかり。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
男性が手を伸ばした瞬間、マンハッタン高層ビルの風景はフッと消えてしまいました。もしかしたら、自分が掴めていたかもしれない未来。暗くて寒くて乾いた部屋で一人、全身の震えが止まりません。男性はすがるように、次の有料noteを開きました。すると、今度はエプロン姿の女性が料理をしています。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
後ろ髪を束ねた女性のお腹は膨らんでいます。「あ、蹴った」とお腹をさする優しい表情。「理恵!」男性は思わず叫びました。忘れましません、大学時代の元カノ、大妻女子大の理恵です。2男の頃、インカレテニサーに入ってきたばかりの右も左も分からぬ1女の理恵を口説いて付き合った記憶が蘇ります。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
人生初の彼女に浮かれていた男性でしたが、釣った魚に餌を与えないどころか雑に扱うという、童貞を捨てたばかりの非モテにありがちなミスを犯します。アフター5でディズニーに行く約束をしてたのに、パチスロ北斗の拳で設定6を引いたからとドタキャンした過去。クリスマスのディナーはサイゼリヤ。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
結局、理恵とは一年も持たず破局してしまいました。「別に女なんていくらでもいるし」と強がっていた男性でしたが、その後、ちゃんとした関係を結ぶ女性を見つけることはできませんでした。目の前の相手を尊重することで信頼を積み重ねるという、人として最低限のことすらできない人間の、惨めな結末。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
一方、理恵はその後保育士となり、千葉大教育学部卒の中学教師と結婚します。お腹の子供は3人目。流山おおたかの森駅徒歩7分3LDKのマンションは少し手狭なので、戸建への引っ越しを考えています。タワマンもSAPIXも無縁ですが、だからこそ、日々の営みの何気ない幸せを噛みしめながら暮らしています。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
暖かさと優しさで満ちた光景が消えると、また孤独が押し寄せてきます。男性は声を上げて泣き始めると、隣の部屋から「うるせーよ!」と壁ドンされました。慌てて次の有料noteを開こうとしましたが、もう、Vプリカの残高がなくて買えません。暗闇の中、スマホの画面だけがぼうっと青白く光っています。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
自分の能力を過信し、努力を嫌い、下積みを蔑み、真摯なコミュニケーションを避けてきた人生。38年間を無為に過ごして、一体何が残ったというのでしょうか。京成線の電車がガタガタ部屋を揺らす中、ストゼロのアルコールが全身に回ってきました。男性はもう、全てがどうでも良くなってしまいました。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
一年後。男性の姿は茨城にありました。この残酷な世界から逃げるべく死を選んだ男性でしたが、命を絶つという覚悟もなく、結局、財布に残っていた最後の5000円を使ってスーパーひたち号に乗って実家に逃げ帰ったのです。リタイヤ済みの故郷の両親は呆れつつも、それでも暖かく迎え入れてくれました。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
男性の顔は日焼けし、頭には白い手拭いが巻き付けられています。親戚の叔父さんの紹介で、地場の建設会社に雇ってもらったのです。ベトナム人技能実習生に混じって太陽の下で身体を動かすことで、汗とともに自分の中にこびりついた澱のようなものが静かに、でも着実に流れ出ていくのを感じます。
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
東京での20年間は何だったんでしょう。人ではなく画面とばかり向き合い、その向こう側の人たちと優劣を競い、何を得たというのでしょうか。昼休憩が終わって作業に戻ろうとすると、スマホが震えました。「○○さんがあなたの有料noteを購入しました!」男性は苦笑いしながら、アプリを削除しました(完
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
刺さるなぁ。
— ねこねこ (@nekoneko333) November 5, 2022
主人公のささやかな再生に作者の暖かさを感じました。
交友関係が狭すぎてエリート街道まっしぐらの人間を周りで確認してないため普通に楽しく読めた
— 風説のウルフ (@Tyo_JohnReno) November 5, 2022
鋭利な刃物であることは間違いない https://t.co/gkXvwZhmwU
https://t.co/7NJeSCBAhq
— 守守守 (@kamimorimamoru) November 5, 2022
最近副業で稼げるとかフォローでアマギフプレゼントとかプロフに書いてる人からフォローされるけど
Twitterで情報商材売ろうとしてる人ってこういう人なのかしらん
【お願い】私の娘の親である外山薫 @kaoruroman が初の書き下ろし長編小説を出しています。この有料note…じゃなかった、小説が売れないと可哀想なことになるので、予約を何卒よろしくお願いします。アタイ、人生どこで間違えたんだろうな…https://t.co/kkxej77Xrk
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
また一気読みしちゃいました😃さすがに申し訳なくなって来てしまい、外山薫さんの書籍、Amazonポチりました!
— 一粒のなおや (@naonao00501238) November 5, 2022
ありがとうございます!やったー!!もともと趣味でやってることなので無料でも楽しんで頂けれるだけで全然構いません!
— 窓際三等兵@息が詰まるようなこの場所で (@nekogal21) November 5, 2022
文章に惹き込まれてしまいました!
— そゐじょゐ (@nanio4126) November 5, 2022
あなたの娘さんの親御さんである外山薫さんの本を読んでみたくなりました!