陰湿金融文学「エール。旧行時代の名残らしい。」鷹山先生の送別会物語 -

投稿日 2023年1月9日 | 最終更新 2023年4月11日

鷹山@yo____zan
「ご異動される課長の活躍とぉ！支店の発展を祈念してぇ！エールを送るぅ！！フレー！フレー！」
異動する課長の送別会。課長の挨拶のあと、エールをきった。体育会でもなんでもない自分が小学校の応援団以来の声を張り上げる。
#陰湿金融文学
2023/01/08 20:35:57

エール。旧行時代の名残らしい。入行直後の新人研修会の最終日。指導チームの副リーダーだった人物が新入行員たちの目の前でエールをきった。
彼の旧行がどこか知ったのはそのあとだ。皆理解した。旧行なんてもはや過去の話だと思っていた。ただそれは確かに根付いているようだ。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

関西地方支店へ配属。統合時に複数の支店が一緒になったようだ。統合前の話なんて誰も知らないと思っていたが、そんなことはないようだ。
「旧支店の時からの取引なんだよね。」
取引先の経理部長が懐かしそうに話す姿を見て、自分の色を意識するようになった。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

支店長と課長の旧行が異なることに気づいたのはとある飲み会だった。
年次がほぼ変わらない中での明確な序列。課長は俗にいう取り込まれた側の銀行だ。
経営層になれるかなれないか、大きな壁を感じた。課長はエール文化のある銀行だった。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

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支店長と離して設置された課長のテーブル。2人の仲が険悪なのは皆知っていた。積極的な営業で兄貴肌の課長に対して、保守的でリスクを取らない支店長。そもそもの性格が合わないのだろう。課長が冷遇されているのは新人の自分から見ても明らかだった。当然その支店ではエールなんてなかった。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

そもそも関西では弱い銀行だ。
支店長は仲の良い取引先ばかり周る。終わりが近い銀行員人生のセカンドキャリアを考えているのだろうか。課長が担当する先は自ずと難しい先ばかりとなった。とても新人が担当すべきでない要注意先やクレーム先。新規の取引なんてとてもじゃないが獲得できない。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

そんな中でも課長は一生懸命だった。上がり目がない中での真摯な姿勢には胸を打たれるものがあった。こんな上司になりたい。本気でそう思えた。プライベートでも飲みに行き、学べる仕事は全て学んだ。新人を従えるそんな姿を支店長はよく思わなかったのだろう。終わりはあっという間だった。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

関連子会社への出向。当然片道切符だ。
47歳と早いタイミングの打診は人事サイドの口減らしもあったのだろう。支店長は快諾したらしい。課長の出身でもある関西支社での勤務となったのは支店長なりの温情だろうか。給与は4割減となる。課長の息子はまだ高校生だ。やり切れない気持ちになる。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

送別会は淡々と進んだ。とてもご栄転とは呼べない出向でありながら、皆がにこやかにご栄転と呼ぶ違和感に寒気を覚えた。自分はご栄転とは絶対言わなかった。言えなかった。新人の出来る小さな反抗。そして課長の挨拶。凛とした姿でマイクを持つ。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

「東京で長く働き、最後にこの関西に帰ってこられて良かったです。支店のメンバーやお客様に恵まれ非常に充実した毎日でした。働く場所は変わりますが、これからも営業連携で関わることもあるかと思いますので是非よろしくお願いします。」
当たり障りのない大人の挨拶。
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

「最後に、一つだけ心残りがあります。」
「自分の下で働いてくれた若者達を次の舞台へ送り出せなかったことです。彼らは非常に優秀です。当行の未来そのものです。大切に育ててきました。これから更に大きな舞台へ羽ばたく彼らを少し離れた場所から応援出来ればと思います。」
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023

これから手渡す3500円の安物の花束を持つ手が震えた。課長最後の挨拶に少し会場が熱を帯びる。
課長と目が合った。この人は報われない銀行員人生だった。ただ、自分の入った、働いた銀行を嫌いにならないで欲しい。マイクを握った。一呼吸おく。
「課長へエールをきらせていただきます。」
— 鷹山 (@yo____zan) January 8, 2023