投稿日 2023年3月26日 | 最終更新 2023年4月24日
たまちゃん @銀行@tamachanbankむかしむかし、ある銀行支店に課長と支店長代理がいました。毎日、課長は支店長にしばかれて、支店長代理は課長にしばかれていました。なぜなら、その支店では新規先の開拓が全く出来ていないからです。
2023/02/21 18:51:28
#陰湿金融文学
たまちゃん @銀行@tamachanbankある日、いつも通り支店長代理が課長にしばかれていると、新入行員が配属されてきました。それはそれは元気のいい新人で、すくすくと育ち、やがて意欲のある若手Aになりました。
2023/02/21 18:51:28
ある日、Aが言いました。「ぼく、新規先へ行って、取引を取ってきます!」
課長は、Aの真剣な眼差しをみて、ではなく新規取引を取らないと支店業績が大変なことになるため、「では、見込収益(新規取引ができた場合にお客さまから頂ける手数料や金利)を概算してあげよう」と、Aに見込収益を持たせます。
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
新規先との取引推進の途中で、Aは本部の為替担当に会いました。「Aさん、どこへ行くのですか?」(新規先へ行って、取引をとるんだ。収益を分けてやるから仲間になってよ)為替担当は新規先との取引が始まった際の為替手数料に惹かれて仲間になりました。
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暫くいくと、今度は本部の運用担当に会いました。(収益を分けてやるから……以下同)運用手数料に惹かれて、運用担当が仲間になりました。
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さらにいくと、デリバティブ担当に会いました。金利ヘッジ手数料に惹かれて、デリバティブ担当も仲間になりました。
いよいよ新規先に到着です。さすがは難攻不落の新規先。中々門戸すら開きません。しかし、そこはフレッシュなAが足繁く通い、本部の担当者から聞き齧った提案を繰り返し、何とか門戸を開けることに成功します。そこからは、本部担当者らの怒涛の攻めです。
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為替担当は、新規先として特別に手数料を減免し、他校からの為替取引シフトに成功します。
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運用担当は、お客さまが円資産しか持っていないことに着目。円安が進行すると、ドルベースでは資産が毀損しますよ・利回りもいいしヘッジも兼ねて外貨建て運用しましょう、と外貨建運用商品を獲得します。
最後はデリバティブ担当です。ちょうど、インフレ対策として海外では金利が上昇、日本でも日銀が長期金利の変動幅を0.25%→0.5%に引き上げたばかり。今後の金利上昇に一抹の不安を覚えていることを察知したデリバティブ担当は、他行の複数の変動金利貸金を一本化。単に固定金利貸金にすれば良いところ
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をわざわざ金利デリバティブでヘッジすることでデリバティブ手数料を獲得します。
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これらによりAは、見込収益を実現したのです。支店長も課長も大喜び。今期は支店も業績表彰です。そして支店の皆は末永く幸せに………とはなりません。
今はまだ新規取引が取れただけ。お客さまとは中長期的にお付き合いする必要があるのです。
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翌年、Aは成果を認められ、本部の専門部隊に栄転しました。支店の目標は、昨年の新規取引拡大分が上乗せされ大きくなっています。要は、昨年以上に新規取引を拡大しないとダメなのです。
従って、Aの後任としてやってきた若手BはAよりも大きな目標を背負います。
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さぁAが開拓した新規先との取引を深掘りしよう!とBが意気揚々とお客さまを訪問すると、何となく重い空気が流れています。なんと、米国の利上げペース鈍化を受けて円高に振れ、外貨建商品で多額の含み損が出ているのです。
しかも原材料価格の高騰を受け当社の業績も悪化。運用商品を解約して資金繰りに充当したくても、含み損を表面化させると赤字になってしまいます。「追加で貸してくれないか?」お客さまから要請があります。しかし、昨年に個社の上限まで貸し込んでおり、かつ業績悪化により行内格付も低下。
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追加で融資は出来ません。それどころか、今年から低格付先への為替手数料減免は取り止める銀行方針となったため、新規先キャンペーン手数料から通常手数料へ戻す交渉が必要です。「そんなことは聞いてない!手数料を下げるというから取引をしてやったのに、一年足らず、しかも当社が厳しいときに!」
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お客さまのお怒りはご尤もですが、Bにはどうしようもありません。怒ったお客さまは他行に相談、すると他行から多額の融資を受けられることになりました。「これで全部返してやる!」残念ながら、デリバティブで金利を固定化しているため全額弁済するにはデリバティブの解約清算金がかかります
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
(注:デリバだけでなく固定金利貸金でも同様です)「そ・ん・な・こ・と・は聞いてない!!!」お客さまは怒り心頭です。しかし、契約書には当然記載されていますし、行内の交渉記録でも説明したと記録されています。お客さまは泣き寝入りならぬ怒り寝入りです。
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
言った言わないの苦情対応で、Bはいっぱいいっぱいです。新規取引開始時に提案してくれた本部担当に相談しても、事後対応は支店の仕事、と冷たくあしらわれます。課長に相談しても、苦情対応なんかサッサと終わらせて前向きな仕事をしろ、と言われるばかりです。
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
Bも前任店ではそこそこ優秀とされる担当者でしたが、運が悪かったとしか言いようがありません。結局、苦情対応に追われ碌な成果を出せず、次の異動で地方店に飛ばされました。
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
そういえば、本部に栄転したAはどうなったのでしょうか。彼も地方店に飛んでいました。新人の頃から自身でお客さまを
深掘りすることなく、本部専門部隊へ繋げるムーブが成功体験として染み付いてしまった彼。本部へ行っても御用聞き・伝書鳩ムーブから脱することができず、専門部隊不適格の烙印を押されたようです。
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
今年も銀行は新規取引拡大キャンペーンに力を入れています。支店・本部専門部隊も新規取引拡大に向けて総力を結集します。アフターフォロー・事後対応なんか誰も知ったことではありません。あ、また別の支店で無理な新規取引で膨らんだ時限爆弾が爆発しています。
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
ああ、こっちの支店でも爆発しています。
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
爆風で飛ばされた若手のポケットから、銀行の経営理念カード(笑)がポトリと落ちてきました。そこには、お客さまの中長期的なパートナーとして最も信頼される銀行になる、と書かれていました。
おしまい🌸
いいね・RT、フォローありがとうございます😊
— たまちゃん @銀行 (@tamachanbank) February 21, 2023
過去作品もお時間ある時にぜひ💕 https://t.co/eEHVdxl8Ma
なんでだろ、読んでて胸が苦しくなる🥹
— ミト (@amenimomakemake) February 21, 2023
昔の自分を思い出して涙が出てきた…
— アルス (@arusu752) February 22, 2023
前担当のせいでお客からガラスの灰皿投げつけられたのいい思い出