投稿日 2023年11月5日 | 最終更新 2023年11月5日
吾輩は目標未達行員である。人権はまだ無い。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でフィーフィー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで初めて支店長というものを見た。あとで聞くとそれは役員候補という支店長中で一番獰悪な種族であったそうだ。#陰湿金融文学
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
この支店長というのは時々我々を詰めて責任を負わせるという話である。しかしその当時は何という考えもなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の掌に掴まれてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
この時少し落ちついて支店長の顔を見たのがいわゆる支店長というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されべきはずの頭がつるつるしてまるでヤカンだ。その後人間にもだいぶ逢ったがこんな若いヤカンには一度も出会ったことがない。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
のみならず顔の真中があまりに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。どうも咽せぽくて実に弱った。これがオヂサンの吸う煙草というものである事はようやくこの頃知った。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
この支店長の下でしばらくはよい心持に働いておったが、
しばらくすると非常な速力で営業の旗振りを始めた。支店長が動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗に眼が廻る。胸が悪くなる。到底助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
ふと気が付いて見ると支店長はいない。沢山おった同期が一人も見えぬ。肝心の上司さえ姿を隠してしまった。その上今までの所とは違って無暗に明るい。眼を開けていられぬくらいだ。はてな何でも様子がおかしいと、のそのそ這い出して見ると非常に広い。吾輩は支店から本部の閑職へ棄てられたのである。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
ようやくの思いで閑職を抜け出すと向こうに大きな支店がある。吾輩は支店の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという分別も出ない。しばらくして泣いたら支店長がまた迎えに来てくれるかと考え付いた。フィー、フィーと試みにやって見たが誰も来ない。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
そのうち支店の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減って来た。泣きたくても声が出ない。仕方がない、何でもよいから仕事のある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと支店の外を左に廻り始めた。どうも非常に苦しい。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
そこを我慢して無理やりに這って行くとようやくの事で何となく支店長臭い所へ出た。ここへ入ったら、どうにかなると思って退職者が出た穴からもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの退職者がなかったなら、吾輩はついに職を失い路傍に餓死したかも知れんのである。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
さて支店へは忍び込んだもののこれから先どうして善いか分らない。仕方がないからとにかく明るくて暖かそうな方へ方へとあるいて行く。今から考えるとその時はすでに修羅の内に入っておったのだ。ここで吾輩は彼の役員候補以外の支店長を再び見るべき機会に遭遇したのである。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
第一に逢ったのが営業課長である。これは前の役員候補より一層乱暴な方で吾輩を見るや否やいきなり頸筋をつかんで表へ放り出した。いやこれは駄目だと思ったから眼をねぶって運を天に任せていた。しかし減給と暇なのにはどうしても我慢が出来ん。吾輩は再び営業課長の隙を見て材料会議へ出た。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
すると間もなくまた投げ出された。吾輩は投げ出されては這い上り、這い上っては投げ出され、何でも同じ事を四五遍繰り返したのを記憶している。その時に営業課長と云う者はつくづくいやになった。この間営業課長のお得意先を盗んでこの返報をしてやってから、やっと胸のツカエが下りた。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
吾輩が最後につまみ出されようとしたときに、支店長が騒々しい何だといいながら出て来た。副支店長は吾輩をぶら下げて支店長の方へ向けてこの手に職なしの行員がいくら出しても出しても材料会議へ来て困りますという。主人は鼻の下の黒い毛を撚りながら吾輩の顔をしばらく眺めておったが、やがて
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
そんなら内へ置いてやれといったまま奥へ這入ってしまった。支店長はあまり口を聞かぬ人と見えた。副支店長は口惜しそうに吾輩を材料会議へ放り出した。かくして吾輩はついにこの支店を自分の職場と決める事にしたのである。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
吾輩の支店長は滅多に吾輩と顔を合せる事がない。得意は相続案件だそうだ。得意先廻りから帰ると終日支店長室に這入ったぎりほとんど出て来る事がない。支店のものは大変な勉強家だと思っている。当人も勉強家であるかのごとく見せている。しかし実際はうちのものがいうような勤勉家ではない。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
吾輩は時々忍び足に彼の支店長室を覗いて見るが、彼はよく昼寝をしている事がある。時々読みかけてある本の上に涎をたらしている。彼は胃弱で皮膚の色が淡黄色を帯びて弾力のない不活溌な徴候をあらわしている。その癖に早飯を食う。早飯を食った後で太田胃酸を飲む。飲んだ後で書物をひろげる。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
二三ページ読むと眠くなる。涎を本の上へ垂らす。これが彼の毎夜繰り返す日課である。吾輩は平行員ながら時々考える事がある。支店長というものは実に楽なものだ。行員と生まれたら支店長となるに限る。こんなに寝ていて勤まるものなら平行員にでも出来ぬ事はないと。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
そう思ったのに、たまちゃんは支店長にはなれず、永年の支店長代理です。
— たまちゃん2 @銀行 (@tamachanbank2) June 16, 2023
旧アカウントが乗っ取られてしまったので再掲します。
よろしくお願いします🥺