投稿日 2022年2月7日 | 最終更新 2023年4月11日
やっぱり茹でるんですね、パスタ。
「拝金主義のディベロッパーは消え失せろ!」
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
やれやれといった顔でその怒号を聞き流した。再開発事業のスタートはいつもこうだ。#タワマン文学大賞
区が所有する土地を中心に再開発し、タワマンを建てる計画を推進しているデベロッパーから土地の取りまとめを請け負っている私は、怒りをあらわにする地元住民の気持ちが落ち着くのを待った。再開発、タワマンと聞くだけで地元住民が意味もなく拒否反応を示すことには慣れている。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
木造家屋が並び、下町の面影を残す街を再開発しようとすると、拝金主義だの日照権の侵害だのと言われ、ひどい時には殺人者呼ばわりもする。多くの人は誤解しているのだけれど、これを時間をかけて説得していくのが私の仕事だ。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
「タワマンは地震に脆弱だ!高層階では炊飯器で米も炊けない!地上から離れる恐怖感でエレベーターで壁に頭を打ち付ける子供が続出!テスラ缶は細胞を修復する!」住民の気持ちはなかなか収まらない。その上、非科学的なことを主張している。今日のところは引き上げよう。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
その日、私は住民の主張を聞くだけ聞いて帰ることにした。都心部に取り残された駅前木造密集地がいつか再開発エリアに指定されることについて、多くの住民は頭では理解しているが、いざ自分の話になると思考が追い付かない。解決策は「時間」しかないのだ。失恋と同じである。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
怒号を浴びて疲労困憊の私は最寄り駅に着いた。改札に向かってくる人が濡れた傘を畳んでいるのを見て外は雨だと気づいたが、駅直結のタワーマンションに住んでいるため濡れる心配はない。ゴージャスなエントランスホールでコンシェルジュに会釈をし、水盤のある吹き抜け空間を通り過ぎた。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
エレベーターホールに着くと、低層階専用エレベーターには長蛇の列があったが、私が乗る高層階専用エレベーターは利用人数も少なくいつも空いている。たった数百万円の差でこれほどまで生活のストレスが違うのかとしみじみ感じながら、高層階を選んだ過去の自分を褒めた。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
「ただいまー!」ドアを開け大きな声で叫んだが、今日もまた返事はない。3LDKのファミリータイプの部屋に私は一人で住んでいるのだから返事があるはずもないが、隣接住民の手前いつも家族で住んでいる風を装っているのだ。虚しさを感じながら、夕食の準備に入った。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
パスタを茹で、ボウルにパルミジャーノとペコリーノロマーノを削り、今日もまたカチョエペペを作ろうと思ったその時、携帯電話が鳴った。知らない番号だったので恐る恐る出ると、「再開発の事なんだけど、、、」と男性が話し始めた。聞くと、今日の再開発事業の説明会の参加者だった。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
「今日の話はさ、表向きの話でさ、本当はさ、俺たちは再開発事業に賛成なんだよ」と男性は私に打ち明けた。男性は酒屋のサブと名乗った。「今日は留吉が張り切ってたけどさ、俺たち本当はわかってんだよ、再開発事業に乗った方がいいって、でもさ、最初から賛成というわけにはいかないだろ」
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
「とにかくさ、明日もう一度話そう、でも、このことは留吉には内緒だぞ」酒屋のサブは含みを持たせた言葉で私に言った。電話を切り、茹で時間を大幅に超えたパスタをボウルに入れ、素早くかき混ぜカチョエペペを作り、大きなダイニングテーブルの端で一人で夕食をとった。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
次の日、酒屋のサブとの話し合いにいくと、そこには魚屋のゲン、八百屋のマサ、肉屋のキヨシも一緒だった。「昨日は悪かったな」開口一番酒屋のサブがばつの悪そうな顔をしながら言った。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
「実はさ、俺たちそろそろ商売を畳もうと思ってんだけど、まあこれもいい潮時だと思ってさ、でもさ、俺たちが先陣を切ってそう言うわけにはいかないだろ、まあなんというか、留吉がうるさいからさ、あいつさ、何でも綺麗事なんだよ、街の心配をする前に自分の心配しろってんだよガハハハハハ」
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
魚屋のゲン、八百屋のマサ、肉屋のキヨシも一緒になって笑っていた。「それでさ、今日おまえを呼んだのは、折り入って相談があるんだけどさ、単刀直入に言うと、俺たちの土地を周りよりも高く評価してくれねえか、そうしたらさ、俺たちは住民の説得を手伝ってやってもいいぜ、
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
最初から寝返ると留吉に怪しまれるからさ、表向きは留吉と一緒になって反対しているふりをしてさ、裏では再開発事業を手伝うというわけさ」私は心の中でガッツポーズをした。理想論を振りかざす人間より、人より少しでも得をしたいというお金で動く人間の方が扱い易いのだ。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
こうして私は札束で住民をしばきあげながら一人ずつ崩していき、事あるごとに近所のルノアールで集会を開いた。「皆さん、今の相場だと地権者住戸を転売するだけで7000万円ですよ、7000万」と住民感情を煽りながら街づくりを進めていった。
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021
「あとさ、留吉が今後も日照権とかでさ、うるさいこと言ってきたらさ、また俺たちに言ってくれよな、太陽の光を浴びたいなら、商業地域じゃなくて住居専用地域に住めよ、って言ってやるよガハハハハハ」今では酒屋のサブは私の優秀な右腕である。(完#タワマン文学大賞
— Yohei Shiraishi (@yh_shiraishi) November 22, 2021