投稿日 2022年8月28日 | 最終更新 2023年4月24日
麻布競馬場@63citiesガリガリとコーヒー豆を挽くと、家賃9万の芝浦の部屋にいい香りが満ちた。幹線道路を走るポルシェのうるさい音がした。タワマンの日陰がベランダを濡らしていた。僕は今日も「丁寧な暮らし」をやっている。そうやって僕は今日も、自分の貧しさを、それを生んだ自分の無能と怠惰を覆い隠している。
2022/08/27 11:22:14
大学まではすべてが順調だった。地元の一番いい県立高校に入って、東大には落ちたけど慶應には受かった。母はそれでも鼻高々で、逆に慶應のほうが三田会があるから就活には有利だとか、そんな言い訳を付言して周りに自慢しているらしかった。こうやって言い訳する癖は母からの遺伝だなと今は思う。
— 麻布競馬場 (@63cities) August 27, 2022
あの頃の大学生たちの間には冷笑が満ちていた。「意識高い」は悪口だった。明らかに高校までは真面目で大人しかった子たちなりの、知的ヤンキーごっこだったのかもしれない。宅飲みでジーマをしこたま飲んで、翌日の必修の大教室で「二日酔いやばw」とか言ってるだけのほうがかっこいいと思っていた。
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そうして僕はビジコンに出る連中を笑った。インターンをやる連中を笑った。実際に起業して成功する連中のことは見ないふりをした。そういう日は日吉の友達の家でスマブラをしてジーマを飲んだ。「クラブで輩が飲んでるやつじゃんw」とか言い合ってたけど、クラブには怖くて行ったことがなかった。
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三年になって適当なゼミに入って、先輩たちが就活に苦戦しているのを見て、そこで初めて自分がいかに馬鹿なことをしてきたのか気付かされた。焦って夏のインターンのESを書こうとしたが「学生時代に力を入れたこと」なんて陰キャの宅飲みでジーマを飲んでイキることしかなかった。大手は全落ちした。
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結局、業界何位かも分からないシステムコンサルの内定しか取れなかった。オフィスが大門だったから芝浦に住んだ。家賃補助なんてなかったから家賃9万の築古1Kしか選択肢がなかった。3点ユニットは黄ばみ、おばあちゃんの飴みたいな色のフローリングはささくれ立ち、隠せない古さが部屋に満ちていた。
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社会人になって僕は慶應ブランドを失った。名前も聞いたこともない女子大との合コンで女の子が優しくしてくれたのも、結局は僕に貼られたその学歴のラベルが「無限の可能性」を証明してくれたおかげだった。今や僕はただの「名前も聞いたことのない会社に勤める年収500万のブサメン」になっていた。
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【ご報告】で始まる「人生うまく行ってる自慢」を見ているだけで気を病むからFacebookのアプリは消した。あの頃の陰キャ仲間たちも陰でコソコソインターンなんかをやっていたらしく、みんな大手に行っていた。会うと仕事の話になって、そうなると惨めになるから会うのをやめた。友達がいなくなった。
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友達も彼女もいない。誰もいない人生の余白を埋めるために僕が始めたのが「丁寧な暮らし」だった。花瓶を買った。コーヒーミルを買った。古着を買った。それらは実のところあまりお金がかからなかった。それらを好きでやっていると主張することで、僕は金のかかる人生から合理的に逃げることができた。
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車なんて東京だと無駄なだけだよ(笑)新築マンションなんて買った途端に価値が半分になるらしいよ(笑)高いレストランなんて最近はパパ活の連中ばかりで雰囲気悪いよ(笑)わざわざ新品で服買うなんてSDGsに反するでしょ(笑)そうやって僕はまた冷笑して、怠惰な自分のプライドを守っていた。
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土曜の朝。今日も予定はない。しかしいい天気だな。ニューバランス履いてキツネカフェでコーヒー飲んで清水湯で風呂とサウナに入ってミッケラーでクラフトビール飲んで学芸大学の自宅に帰る前にリ・カーリカでオレンジワイン飲んで家でレコード流しながらビオトープで買った観葉植物に水をやろうかな。
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今日も1日1万円もかからず素晴らしい週末を過ごすことができた。孤独を楽しめるのが大人だ。実はリ・カーリカで隣にいた女の子がすごくかわいかったから話しかけようかと思ったけど、お店の雰囲気に反するしやめた。別に、話しかける勇気が出なかったとか、無視されるのが怖かったとかでは決してない。
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芝浦のこの部屋にはもう10年ほど住んでいる。狭い部屋に物がゴチャゴチャと増えていった。ダサい部屋にかっこいいものを置いてもダサい部屋のままだった。第一京浜を走る外車がうるさい。タワマンのせいで日当たりが悪い。給料はあまり増えない。このまま一生この部屋から出られない気がする。
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でも僕は、この部屋のこの暮らしに、何年経ってもペアーズで3いいねくらいしか貰えない人生に、ひどく満足している。幸せはお金じゃない。孤独は不幸じゃない。窓辺に置いた観葉植物が元気ならそれでいい。このあたりに漂う鼻をつく潮のにおいも悪くない。本気でそう思っている。そうなんだよ。
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おい、そんな目でおれを見るな。
— 麻布競馬場 (@63cities) August 27, 2022
誰もいない人生の誰もいない部屋のカーテンを風が揺らした。カーテンは大学時代から使っているものだった。小さいテレビも、縦型の洗濯機も、すべて大学時代から使っているものだった。慶應を出て10年。僕の人生は塩を含んだ風にあてられて、日々少しずつ錆びついてゆくようだった。今年で31歳になる。
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おしまい 9月に本が出ますhttps://t.co/j7q8KUF31q
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家賃9万払えて生活できる給与があるなら、ええ暮らしな方やろ
— きょうぼうなおたく@デメリットが精神にまで影響を及ぼしている (@kkkeitoito) August 27, 2022
「丁寧な暮らし」って表現いいですね。僕はボーっとしている時間を「時間を楽しんでる」と呼んでます。
— 愚者こめかみ (@ComekamiTheFool) August 27, 2022
あれ?なぜだろう?頬をつたう涙は。義務教育でも読まなかった教科書、友達から借りたエロ本すら目を通さなかったのに自分の脳に直に語りかけてくる内容だ。
— あすぱら (@7sgRoRykrL4YBsT) August 27, 2022