投稿日 2023年3月27日 | 最終更新 2023年4月24日
かとうゆうか@plasticat_y青学在学中にスカウトされて勤め始めた恵比寿のラウンジで生まれて初めて自分よりも可愛い女の子たちに出会い、私を中心に回っていた世界が一変し歪み始めた。お客さんから「チェンジして」と言われることも一度や二度ではなく悔しくてTwitterの整形垢の情報を頼りに韓国でエラと顎の骨を削った。
2023/03/27 11:44:36
かとうゆうか@plasticat_y初対面で必ず小顔だと褒められるようになり自信を取り戻した私は西麻布のラウンジに移籍した。時給が2万円を超えると就活が馬鹿馬鹿しくて大学を辞めた。毎日通うようになった西麻布は男も女も見栄の戦争をしていた。誰もが成功者だと思われたくて人気者になりたい街。そのためには金が必要だった。
2023/03/27 11:44:37
安く見られた瞬間に舐められるから客に貰った大きく輝くハリーウィンストンのネックレスを身につけ、色とりどりのバーキンをMaxMaraや PRADAやDIORの洋服に合わせた。男たちもそうだった。毎日繰り広げられる時計と車と家の広さ自慢。私はその全てに自動で「すごーい」と応答する機能を搭載した。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
1800のショットを飲みすぎた二日酔いから目覚めてLINEを開くと地元の岐阜の友人グループからの通知が溜まっていた。内容を要約すると「もうすぐミズキの子供が生まれるけど出産祝いどうする?」というものだった。ミラグレーンを口に放り込みながら小中学を共に過ごした友人たちの顔を思い浮かべる。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
私以外の5人は今も岐阜県にいる。近所のお祭りの今川焼きの行列に1時間並んだときも修学旅行の沖縄がバス酔いで散々になったときも初めて男子に告白したときも一緒にいたのはこのメンバーだった。昔からみんなに「地元で一番可愛い」と姫扱いされ甘やかされてきた。「蘭ちゃんなら女優になれるよ」。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
その言葉に乗せられて東京に行きたいと思うようになり両親を説き伏せて青学に進学した。しかし夜の街で埋もれた私はスターダストからもエーチームからもオスカーからもスカウトされることはないまま今年で28歳になる。みんなは地元の同級生や先輩と結婚していて私だけが取り残された孤独感があった。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
だけどグループの中の誰よりも貯金があって何でもない日に『レフェルヴェソンス』や『三谷』で食事ができるのは私だ。つまり一番豊かで幸せなのは私なのだ。出産祝いは各々で用意することになり、初めて友達に出産祝いを贈る私は何をプレゼントするべきかを必死でリサーチした。ショボイ物は渡せない。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
同じラウンジの子やお客さんにも意見を聞き回ってこれだと思ったものはDiorのベビー服とビブとボンネットの3点セット。お値段84000円。ハイフを2回打てる金額だ。何となく自腹で払いたくなくていつも通りパパに「大事な友達のためにお願い♡」と頼んで買ってもらった。勿論パパとは父のことではない。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
みんなとプレゼントが被らないように報告しようと思ったその時LINEの通知が鳴った。「個別で買うよりもみんなから1つにしない?」「その方が良いもの買えるし」「これはどう?」。私を置いてけぼりに軽快なテンポで繰り出される言葉たち。そこにシャープの空気清浄機の画像が貼られた。お値段31000円。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
嘘でしょ、と目を丸くしたが友人たちは「高いけど喜んでくれるよね」と盛り上がっている。東京で過ごした年月が私たちの金銭感覚の違いをくっきりと映し出していた。弁当屋の50円の揚げたてのコロッケを食べながらみんなで下校したあの頃の私たちにはこんな隔たりなどなかったのに。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
今の私はあの頃のままの友人たちを「貧乏」だと位置付けてしまった。もう彼女たちと仲良くできる自信がない。金銭感覚には性格、生活習慣、価値観が出るというが私はもう「お金がないけど幸せ」になんてなれない。私は西麻布でたくさんのモノを得たと思っていたけれど本当は失ってきたのかもしれない。
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
「店は行かないけどプライベートで飯行こうよ」という客からのLINEによって一気に現実に引き戻される。私は西麻布にしがみつく以外に生きていく術がない。岐阜グループの通知が鳴る。「蘭はいつ地元帰ってくるの?」。もう一生戻れないと返事を打つ代わりに、そっとグループの退会ボタンを押した。(完)
— かとうゆうか (@plasticat_y) March 27, 2023
去年末からTwitter文学にハマって周囲にご心配をおかけしていましたが、この度アンソロジー本『本当に欲しかったものは、もう』が集英社さまから出版されます!私は3作寄稿しています。
— かとうゆうか (@plasticat_y) January 27, 2023
商品説明冒頭の『五分後に、虚しい人生。』だけでもう陰湿さが伝わってきますね……。https://t.co/QT1OmRYtAb