投稿日 2022年4月17日 | 最終更新 2023年4月11日
麻布競馬場@63cities昔、ウユニ塩湖に行ったんですよ。高校のとき「ウユニ塩湖行ったら人生変わった」って、クラスの子が夏休み明け、興奮気味に言ってて、それで、バイト代こつこつ貯めて、どうにか辿り着いたウユニ塩湖は、大きな水たまりみたいで、二分も経たずに飽きちゃったんです。人生は、何も変わらないままです。
2022/04/16 17:00:57
雨が降ると草と土の匂いがして、家の隣の大きな空き地に、大きな汚い水たまりができました。いつまで経っても家どころか駐車場にもならないその空き地は、この街の未来を象徴しているようでした。かと言って、高卒の父と母はいつも満足げで、この街から出る方法を私に教えてくれはしませんでした。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 16, 2022
特に荒れてもない公立小中から特に頭も良くない公立高へ。美咲ちゃんとはそこで知り合いました。彼女はこのあたりの地主の娘でした。田舎の金持ちといえば医者か地主で、勉強ができないと跡を継げない前者と違って、彼女には生まれながらにして、そこそこ楽でそこそこ幸せな人生が約束されていました。
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美咲ちゃんがウユニ塩湖に行ったのは高校一年の夏休みで、BSか何かでそれを見たお父さんが嫌がるお母さんと美咲ちゃんを無理やり連れて行ったのだそうです。結果、美咲ちゃんは「人生が変わった」のだそうです。湖の前でワンピースみたいに片腕を突き上げた写真を、彼女は私に何度も見せてきました。
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でも少ししたら熱も冷めたらしく、彼女はもうウユニ塩湖の話はせず、松坂桃李のドラマの話ばかりする元の彼女に戻ったようでした。その熱が再発したのは大学受験直前期でした。「ウユニ塩湖で人生変わった」そんな景気のいい自己推薦書を、彼女は慶應SFCのAO入試に向けて書き始めたのです。
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お父さんも早々に旅行に飽き、使い道を失ったお金を、娘のAO入試対策塾に突っ込むことにしたようでした。彼女は週末になると東京のその塾に通い、面接練習なんかを繰り返していたようでした。重課金の甲斐あってか彼女は見事に合格。「#春からSFC」ツイッターで何度も誇らしげに投稿していました。
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それがウユニ塩湖のおかげだったのか、戦後のドサクサで大量に獲得したと噂されていた土地のおかげなのかは分かりませんが、何にせよ彼女の運命は、この街の他の人たちよりは明らかに「変わった」ようでした。私は地元の国立大に進んで、この退屈な田舎町みたいな平らな畦道をムーヴで走っていました。
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ループものかと思うほどの日々の繰り返し。お母さんが作る目玉焼きと香薫とお味噌汁の朝ごはんを食べて、ムーヴで大学に行って、授業を受けて、ムーヴでバイト先の居酒屋に行って、ビールや唐揚げを運んで、ムーヴで家に帰る。繰り返し。お味噌汁の具が変わるだけの、気が狂うほどの日常の繰り返し。
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地元の友達がお金配りおじさんのRTばかりする中、美咲ちゃんのツイートだけが異質でした。「現役女子大生ミサキの全部見てやろう」YouTubeやnoteを横断した彼女の私生活の切り売りを見る限り、彼女はせっかく受かった大学にロクに通わず、お父さんのお金で海外旅行にばかり行っているようでした。
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しかしそれでも、彼女の生活は十分に幸せで、成功したもののように見えました。YouTubeは登録者三万人。コメント欄を見る限り、女子大生ブランドに惹かれて寄ってきた冴えない中年がその数字を支えているようでした。それでもすごい数字です。三万人の勃起したおじさんが立ち並ぶ光景を想像しました。
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次第に、彼女のツイートを見るのが辛くなってミュートして、でもひどく酔っ払った日、それが結局は彼女に対する嫉妬であると気付いて大泣きしてしまい、その場でウユニ塩湖ツアーをネット予約しました。彼女がそうであったように、私の人生もあの湖の光景によって変わるのではないかと期待したのです。
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安い飛行機を乗り継いで、安い宿のかまぼこ板みたいなベッドに泊まって、どうにか辿り着いたウユニ塩湖はとても美しくて、でも、それだけで、ワンピースの真似事をして写真を撮っている日本人大学生の集団が視界の角に入って、二分もすれば、帰り道も大変だな、と、どうでもいいことを考えていました。
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地元に帰っても人生が変わる様子はなく、退屈から退屈へとムーヴを転がすだけの日々が戻ってきました。しかし私の人生は変わったと言えます。すがすがしい諦めというか、美咲ちゃんみたいな人を見て、空から降ってくる何かが私の人生を変えてくれるなんていう要らぬ期待を抱かないようになったのです。
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なんてすばらしい日常の喜び!めざまし占いの順位に喜び、たまに朝食の香薫がセールのシャウエッセンに変わることに喜び、ガソスタの景品で鼻セレブが貰えたことを喜び、バイト先の居酒屋で酔ったおじさんに綾瀬はるかに似ていると言われたことを喜ぶ。ハウス栽培のいちごのような輝かしい日常。
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美咲ちゃんの日常も変わったようでした。「原体験に深く向き合った」と、伸び悩んだYouTubeを諦めてOTAなるものを起業しました。立派なnoteを書きました。その立派なnoteに書かれた明るい未来は、コロナで吹き飛びました。美咲ちゃんはまたYouTubeに戻ってきて、サウナ水着回みたいなのが増えました。
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そのYouTubeも閉じて、ネット広告の会社で少しだけ働いて、美咲ちゃんは地元に戻ってきました。「これからはローカルの時代」また立派なnoteを書きましたが、要は東京では全然通用しなくて、それが悔しくて地元で起死回生を図ろうとしているようでした。彼女の目はまだ東京を、世界を向いていました。
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彼女から久々に会おうと連絡が来て、駅前のスタバで待ち合わせしました。この街はスタバすらまずい気がすると彼女は言いました。彼女が着ているオーラリーはこの街で彼女だけが着ているような気がしたし、やわらかなシルエットのその服は、彼女にとっての防護服のようにも見えました。
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業界に違う形で切り込もうと、彼女は都心と地方をつなぐ体験型OTAをまた立ち上げましたがそれもダメで、そのことは単なる失敗という以上に、都心の人にとって地方なんて行く価値のない場所だと言われたような気がして、彼女の心は完全に折れたようでした。noteも閉じて、彼女は静かになりました。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 16, 2022
彼女はひっそりとインスタを立ち上げました。そこには意識の高い調達ストーリーも、シェフを家に呼んでのタワマンホームパーティーの話も流れてこなくて、彼女は庭に咲いたタンポポとか、スタバの新ドリンクの話ばかりをしていました。最近は親の紹介で地銀勤務の彼氏もできたらしいです。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 16, 2022
昔、ウユニ塩湖に行ったんですよ。高校のとき「ウユニ塩湖行ったら人生変わった」って、クラスの子が夏休み明け、興奮気味に言ってたんですけど、その子、慶應に行って偉そうにしてたけど、結局地元に戻ってきて、今はスタバの新作の話ばかり。笑えますよね。田舎のスタバはまずいって言ってたのに。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 16, 2022
私?変わりましたよ。自分のありのままを肯定してあげられるようになったんですよ。他人なんて羨ましくないし、這い上がろうとする人を、必死だなぁ、って笑えるんですよ。地価がじわじわと下がるこの街で、彼女がじわじわと破滅してゆくのを、汚い水たまりの中に立って、楽しく眺めているんですよ。
— 麻布競馬場 (@63cities) April 16, 2022
雨季に入った後の晴れ間で、雲が少なく風が弱い日のリフレクションは素晴らしいですよ(*´ω`*)
— キャプ (@ayahanakana) April 16, 2022
人生は変わらないが、現地ツアーの面々と風景は死ぬまで覚えていそうです。 pic.twitter.com/CrNM5pgPjH
そしてこの投稿を見て人生変わったという人もいれば、何も変わらないという人もいるのでした
— Blackeyだったりクロカギだったり (@BlackeyWhiteCat) April 16, 2022
先輩からのパシリ暴力で参っていた中学時代、アメリカ国立公園約10ヵ所巡るツアーから帰ってきた先輩から同じこと言われて次の年参加してみたけどなにも感じず、3年後自分が寮の最年長で落ち着いた状況の年に「今行けば何か違うかもしれない」と思い立って行ったそのツアーはすごく感動して人生文字数
— はろるど@銃砲店員_リアルハンター (@GS_Eikoh) April 17, 2022
通りすがり失礼します。
— ♪ラプンツェル♪ (@jm_filter_13) April 17, 2022
私は25歳の時に地下鉄の駅に貼ってあった宣伝用の大きなオペラハウスのポスターを見て、あ私ここに行かないと、と急に思って仕事を辞めてワーホリで行きました。人生は変わったのかわからないですが良い人生経験になったのは確かです、って言うのを誰かに聞いてほしくて文字数
ハネムーンで行きましたけど最高でした🥰 pic.twitter.com/X1vhkENlra
— たけちゃん (@takecyann_M4) April 17, 2022
人生変えたきゃいくらでも変えようがあるのにそれをしないのは変わるのが怖い、現状でもそこそこ満足してるってのが本音なんだろうね。出てくるご飯に飽きたなら自分で作ってみたらいい。仕事は辞めて新しく探してみたらいい。今住む場所が嫌なら引っ越せばいい。結局変わるかどうかは自分の意思しだい
— ビタ男(40%) (@gKjyCeSfI3gipoz) April 17, 2022
ウユニ塩湖なんかよりコッチの方が確実に人生かわるhttps://t.co/9jNoncEbZu
— みずっち@配信とかやる人 (@mizc1970) April 17, 2022
現役女子大生ミサキの全部見てやろう大好きでした。勃起した3万人の一人だったのかぁと今ではいい思い出です。美咲ちゃんのその後が気になっていましたが、彼女の人生が垣間見ることが出来て幸せでした。私も東京に夢破れて実家に戻り別のたわわな女子の動画をハァハァしながら観る生活を過ごしてます
— 谷口しげよし (@tanishige_dmw) April 16, 2022
結局はなにが言いたいのでしょうか…
— 早坂レイ(階級:元帥) (@HayasakaGensui) April 16, 2022
『成功した人への僻み』なのか『なんだかんだ何も変わらない自分の情けなさ』なのか…
長文の割にはよくわかんないですね。
私小説と言って、花袋以来の日本の小説の一形態です
— Chibuku (@zambiazero3) April 16, 2022
写真が取りたいだけなら日本でいくらでも撮れるんですよね。画像は島根県 pic.twitter.com/nehkkiIUab
— ざきもま (@MOMAMOMA2010) April 16, 2022
独特な読後感。のめり込みました。
— Toritori (@tori5518) April 17, 2022
慶應SFCってこういうキラキラ大学というレッテルで固まりましたね。
実際、社会を変える人も出てきたりするけど、憧れて入ったものの口先だけになる人と、何が違うんでしょうね。
精神的勝利以外に誰も幸せになっていないのが(略
— hiroyuki_2347 (@Hiroyuki2347) April 16, 2022