投稿日 2023年11月20日 | 最終更新 2023年11月20日
20XX年、世界は自由と自己責任の炎に包まれた。やりたいことを突き詰めることはもはや権利であり、やりたくないことを強制させる者はポリコレ棒で叩かれる暗黒の時代。保守的と言われる銀行、そこに勤める職員のキャリア形成さえ、時代の進むベクトルと無関係ではいられなかった。#陰湿金融文学
— 豊洲銀行 網走支店 (@toyosubk88) November 19, 2023
鈴木と佐藤、同期の二人は幼稚舎からの慶応ボーイ、希望業務は不動産ファイナンス。まずは営業店で基礎を鍛えるなんてのは時代錯誤の人事だ。優秀な学生の二人は当然のように本部の不動産ファイナンス部門に配属された。「この仕事を極めたい。将来もずっとこの部署で働きたい。」二人の口癖だった。
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「なあ鈴木、俺たちずっと同じ仕事をしていていいんだろうか?」しばらくして佐藤は少し心変わりしていた。今の仕事は楽しい。だが案件を通じて関わった他部署の仕事にも興味が出てきた。また優秀な上司と接するうちに「こんなマネージャーになりたい」と思うようになっていた。鈴木はこう返した。
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「そうだな。今は既存案件のモニタリング中心だけど、もっと新規案件とか隣のチームが担当してるREITなんかも見てみたいな。」「そう、だよな。」なんとも言えない距離というか違和感のようなものを感じたが、鈴木の笑顔を見た佐藤はそう答えることしかできなかった。数年後、二人の道は大きく別れる。
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佐藤は自らの希望で営業部に異動した。担当先は不動産業者やREIT。前部署で身につけた知識や経験を活かしつつ、その他のサービスも含めた銀行的な意味での「コンサル」、いわゆる総合提案をしていた。鈴木は入社当時と同じ部署で担当先の幅を広げつつも、不動産ファイナンスの仕事を続けていた。
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二人とも遅れることなく代理に昇格した。佐藤は海外案件を担当していた先輩に感化され、英語に真剣に取り組み、シンガポールに転勤した。「彼に任せれば大丈夫!」同じ部署で周囲から絶大な信頼を得ていた鈴木は佐藤の苦戦報告を聞くと、自分の選択の正しさが証明された気がして誇らしさすら感じた。
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上席代理になって数年後、鈴木の上司に昇格話が持ち上がる。「後任は俺だろう」。4月の人事異動、予想通り上司の名前が通知書にあった。自己採点40点越えで迎える宅建の合格発表みたいな気分で自分の名前を探す鈴木。ある文字が彼の水晶体を通過すると視神経に稲妻が走った。『……次長 佐藤 健太郎』
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異動を周知するための臨時夕礼が終わると鈴木は部長にやんわりと、しかし確かな不満を漂わせながら佐藤の人物評を問う。「君も彼のことよく知ってるだろ?ここの仕事は当然、他の不動産周りの経験もあるし社内外の人脈もある。シンガポールでローカルの部下もマネジメントしてたし、適材じゃないか。」
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「少しやりづらいところはあるかもしれないが、むしろ君と彼で新しいチームを盛り上げてほしいと思う。現場の知識は間違いなく君が一番だからさ。これからも期待してるよ!」自分に対する期待、そのレベルを残酷に突きつけられた鈴木は残った仕事を片付けるのを諦め、行きつけの居酒屋に向かった。
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おしまい
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